ピルあれこれ、これだけは知って欲しい その1
毎日多くの方が低用量ピルの処方を求めて来院されます。その目的の大半は、生理痛(月経困難症)とPMS(月経前症候群)、避妊です。現在、日本では月経困難症で悩んでいる方がおよそ900万人にいると言われ、また女性の約70%がPMS で苦しんでいます。しかしその治療している人はほんの僅かです。
そもそも、ピルとは何なのでしょうか。もともとピルとは丸薬、つまり丸い薬という意味なんです。そしてピルの中には①卵胞ホルモン/エストロゲンと②黄体ホルモン/プロゲステロンの2つの卵巣ホルモンが含まれています。
◉日本はピルの認可が遅かった
低用量の経口避妊薬、いわゆる「ピル」は、日本では20年にもわたる働きかけの末、1999年にようやく承認されました。国連加盟国の中で最も遅かったのです。一方で、男性のための勃起不全治療薬 バイアグラは、申請から半年でスピード承認されました。元参議院議員の円より子氏は、ピル承認までの取り組みについて、「歴史の目撃者」に話を聞くBBC番組「Witness History」で、国会における性差別や男性優位性が認可に時間がかかった原因だと話しています。
◉海外では
海外のピル事情ですが、マイルバガナム恵美さんの「日本とカナダの薬局見聞録」2017/09/22によると、モーニングアフターピル、つまり緊急避妊ピルはなんとアメリカのある大学では、コンドームと同様に大学の自動販売機で購入できるのです。若者の中絶率を低下させるため、アクセス性向上を重視した結果で、オバマ政権はこの販売に「問題なし」との結論を出し、米国食品医薬品局(FDA)も販売継続を許可しました。また英国ではクリスマスにコンドームと緊急避妊薬が無料で配られるなど、日本では考えられないほど、欧米では緊急避妊薬をより簡単に入手できるようになってきています。もちろん海外では低用量ピルも薬局で購入できるケースが多いのです。病院に通うことなく安価なため普及率の高さにつながっているのかもしれません。日本でもその様な動きがありますが、まだまだ時間がかかりそうです。
◉月経って必要ですか?
話を月経にもどすと、妊娠を希望していない女性(結婚前、産後など)にとって、実は月経には医学的なメリットは少なく、妊娠を希望していない時期は、子宮内膜症などの発生を抑えるため、クオリティ-オブ-ライフを高めるため、月経回数は少ない方が良いと考えられています。子供を産んで欲しい神様としては、月経とは妊娠しなかったことのお知らせと考えることもできます。海外では月経を数ヶ月間来させない連続投与法のピルが主流となっています。昔、日本でたくさんの子供を産んでいた時代には、一生の間に女性の月経回数はおよそ150回と言われていました。ところが現在、晩婚化少子化の日本では、生涯の月経回数はその3倍の約450回と言われています。女性は育児も家事もあり、その上男性と同等かそれ以上に仕事もしている。それなのになぜ毎月生理痛やPMSで苦しまなければならないのか、と言う叫びが聞こえてきます。そのため低用量ピルのニーズはますます高まっているわけです。
◉ピルの種類
ピルには色々な種類があります。投与法では、毎月規則的に月経を来させる周期的投与法と前述した月経を数ヶ月周期にする連続投与法があります。日本では周期的投与が好まれていましたが、連続投与も認知されてきました。海外では月経回数が少ない連続投与が好まれている様です。
ピルは卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)の合剤ですが、エストロゲンはどのピルも共通ですが、黄体ホルモンはピルによって異なります。1970年代に生まれたピルは、ピルの顔とも言える黄体ホルモンが現在第4世代まで来ています。ピルの副作用が話題になりますが、もし服用しているピルが自分に合わないと思ったら、他の黄体ホルモンのピルに変更する選択肢もあります。
◉ピルが合わなければ? ピル以外にはないの? ジエノゲスト、ミレーナ、漢方薬
また最近ではエストロゲンを含まない黄体ホルモンだけの「ジエノゲスト」と言う薬剤も発売され、ピルが効かなかった人や副作用が強かった人、またピルが飲めない人(高血圧、40歳以上、肥満、血栓症既往など)に対しても処方され効果を感じる人が増えています。
もう一つのホルモン剤で急速に広まって来たミレーナはご存知でしょうか。これはやはり黄体ホルモンが含有されているデバイスで子宮内避妊システムIUSと言います。もともとは避妊を目的として使用されていたミレーナですが、月経困難症、過多月経の改善にも有効です。レボノルゲストレルという黄体ホルモンの放出によって子宮内膜の増殖を防ぎ、子宮内膜を薄い状態で維持することで、痛み・炎症の原因となる物質の産生を抑制します。最長5年間という長期にわたって効果が持続するのは、大きなメリットです。なお、子宮内膜症・子宮筋腫・子宮腺筋症等に伴う月経困難症と過多月経に対する治療としてミレーナを使用する場合には、保険が適用されます。ミレーナは子宮内に挿入するデバイスなので、出産経験がある場合は比較的簡単に挿入することができます。
ホルモン剤に抵抗感がある人はまだまだたくさんいらっしゃいます。そこで日本には漢方薬という選択肢があります。問診や舌診、腹診などでレスポンスしやすい漢方薬を選んで行きます。
◉ストレス、健康、今むかし
環境や対人関係、仕事のストレスなどで痛みの症状は変化します。ストレス社会ではいかに穏やかな気持ちでいられるかが、生きのびていくためにはとても大切だと日々感じています。睡眠、食事、運動の健康の三原則を日頃から意識していきましょう。
月経痛の治療薬がなかった大昔は、妊娠することが1番の治療と考えられていました。しかし現代ではライフスタイルの変化やホルモン剤の選択肢がピル以外にも増えたため、月経困難性やPMSで苦しむ人たちは、果たして自分にどの方法が合っているのかを、情報収集し医師や薬剤師に相談し見極める必要があるでしょう。